切り札
人物ファイル、性格アセスメント、意思決定シミュレーション
序
一人の人間のファイルを作る——自分自身でも、他人でもいい。計算できることはプログラムが計算し、段階は規則で固定する。AI は説明するだけで、判断は下さない。決める前に、相手が持っている手札を見ておくためのもの。
伏せられた一枚
2026 年の夏、中国語圏のネットでちょっとした騒ぎがあった。騒ぎ自体は私と何の関係もなく、野次馬の列に並べば数千万番目くらいだったと思う。ただ、その中の細部が一つ引っかかった。当事者は、金額が大きく、きわめて私的な決断を前にして、その問いを AI に投げた。AI は迷いなく答えを返し、彼はそのとおりにした。
多くの人は馬鹿げていると言った。人生の大事を、チャットの窓に決めさせるのか、と。馬鹿げているのは本当だ。けれどその下にもう一層ある。彼があの瞬間に求めていたのは、答えそのものではなく、自分の代わりに答えを言い切ってくれる場所だったのかもしれない。人は最大の決断を前にしたときほど、自分の状況を最後まで開いて見せることができない。開いてしまえば、向き合わなければならないからだ。
切り札はこの細部から生まれた。そして、あえて逆をいく。指示はしないし、誰かの代わりに決めない。ただ、一人の人間の手札を一枚ずつ机の上に並べてほしいと頼む——その人は自分でもいいし、他人でもいい。計算できることはプログラムに計算させ、言い切れることは AI に言わせ、最後に決定権はそのまま返す。
人生でいちばん重い決断の多くは、自分についてではなく、他人についてのものだ。部署が解散するとき、責任者はその人をどう処遇するか。共同経営者が抜けると言い出したとき、どう話すか。家族が国を出ると言ったとき、止めるべきか。これらも同じように手札を開く必要がある。ただし開くのは相手の手札で、しかも一部しか見えない。だから切り札は三層になっている。まずその人のファイルを作り、次に性格を測り、最後にシミュレーションする——本人が自ら選ぼうとしていることをどう見るか、本人が受け身で直面する処遇にどう反応するか。対象が自分自身のときも、通る道は同じだ。
先に一文を置いておく。以降の設計はすべてこの一文の周りにある。一人の人間を見極めるのは、その人に対する決断により責任を持つためであって、その人を操るためではない。この仕組みは各層でモデルに「推測するな」と課している。年齢や学歴から性格を推測してはならない。未知を既知として書いてはならない。性格が数字の結論をひっくり返してはならない。年齢・性別・婚姻や育児の状況を処遇の理由にしてはならない。多くの人が頭の中で行っている判断より抑制的であり、だからこそ表に出せる。
一人を机の上に並べる
第一層はファイル。対象のファイルを作る。呼び名以外はすべて空のままでよい——対象が他人であれば、情報が揃っていないのが当たり前だからだ。空欄は「未知」として扱われ、プログラムはそれを未知として記憶し、以降どこでも既知として扱うことを許さない。ファイルはいくつかのブロックに分かれる。属性(呼び名、関係、性別、生まれ年)、土台(年齢、学歴、在学中か、技能、言語とその習熟度、居住地、在留資格)、家計(通貨、月収、月の支出、流動性のある預金、負債と毎月の返済、不労収入)、関係(婚姻、子どもと末子の年齢層、扶養する親、世帯の第二の収入)、外見(体型、身長、容姿の客観的評価——健康に関する情報は一切含まない)、宗教(既定は未知、本人が自ら述べたもののみ記録)。
ファイルで最も重要なのは観察記録だ。この人が具体的な場面で何を言い、何をしたかを日付とともに記す。出典は四種類——直接見た、本人の発言、他人からの伝聞、文字の記録。各項に番号が付く。以降、この人についてのあらゆる推論は、引用できる番号がなければ無効になる。
第二層はアセスメント。経路は二つある。
一つは本人による自己測定。八十問、五件法、十数分。骨格はパブリックドメインの IPIP ビッグファイブ五十問——外向性、協調性、勤勉性、情緒安定性、開放性。残りの三十問は自作の三モジュールで、ストレス反応(引きこもり、対抗、迎合、衝動、過剰統制の五パターン)、動機と価値(安全、達成、自律、所属、地位、快楽)、領域別のリスク選好(金銭、キャリア、対人、転居)。採点はすべて手元で行い、0 から 100 に正規化し、固定した切点で五段階に分ける。回答後、六節のレポートを生成できる——五次元の像、ストレス下での姿、その人を動かすもの、リスク選好、ファイルとの交差、使う側への三つの助言。レポートを書く AI が受け取るのは点数と段階だけで、表現は段階を越えられない。段階が「中」なら「非常に」とは書けない。正直に言っておくと、自作の三十問はまだサンプルによる較正を経ていない。各レポートの末尾にその旨が明記される。
もう一つは推定版で、設問に答えていない対象のためのものだ。AI は観察記録のみを根拠に、各次元の段階、根拠、そして反証条件を出す。根拠には記録番号の引用が必須で、反証条件にはどんな行動が現れればその段階が覆るのかを書く。年齢・学歴・収入といった項目から性格は導けないので、根拠にすることを許さない。リストを作る、計画を立てるといった日常の行動は勤勉性の証拠にしかならず、ストレス反応やリスク選好の推定には使えない。一件の記録では「中」までしか支えられず、「低」や「高」を出すには出典か場面の異なる二件が要る。導けない次元は「根拠なし」と書く。観察記録が一件もない対象には、推定版を出さない。推定版はどこに現れても「推定・本人未受検」のラベルを伴う。検証待ちの仮説であって、レポートではないからだ。
設問のページには呼び名と問題文しか表示されず、ファイルの中身は一切見えない。対象は使う側の端末を手に取って答えている可能性が高いからだ。送信後は「送信しました。端末をお返しください」の一枚に切り替わり、点数とレポートは使う側がファイルに戻って見る。
どう打つかを読む
第三層はシミュレーションで、二つの経路がある。
一つは、本人が自ら選ぼうとしていること——留学、転居や転職、退職して起業。三つのブロックはファイルから来るので、埋めるのは決定のブロックだけだ。何をするのか、一度に出ていく額と毎月増える額、想定期間、仕事を辞めるか、引っ越すか、何を得るつもりか、期限はあるか、失敗したときの退路は何か、すでに実際に何をしたか、動機はどれか、伴侶の態度はどうか。埋め終えると、まず AI を一切含まないスナップショットが出る。現状の月の収支、手元資金が何か月もつか(余裕/逼迫/不足の三段階の判定つき)、決定の総費用と預金に占める割合、巻き込まれる家族の人数。そこに手元で算出した二つの評価が加わる。耐性(資金の持続期間が想定期間に足りるか、何人を巻き込むか)と、可逆性(退職、国をまたぐ、多額の一時支出、長い周期をそれぞれ点数化)。その後、AI が八節を書く。決定と数字、耐性と可逆性、上振れの余地、下振れの底、不確実性、適合度、反対意見、結論。結論の節は一行の評価表から始まり、六つの次元がそれぞれ一段階に落ちる。三つの結論——推奨、慎重、反対——は AI の自由裁量ではない。反対には明文の発動線があり、推奨には満たすべき条件が揃っている。どちらにも届かなければ慎重になり、慎重には必ず「何を埋めるべきか」のリストが付き、埋めたうえで新しい状況をもう一度通す。下振れの底の節では、最悪の場合を誰が負うのかを書く。不確実性の節では、ファイルの矛盾と空白から、避けられている問いを持ち出す。伴侶の態度が「未告知」、退路の記述が漠然としている、動機が「逃げたい」だけで行き先がない——いずれも名指しされる。この経路で性格が果たす役割は一つだけ、リスクの注意書きを増やし、実行上の助言を与えることだ。結論を一段上げたり下げたりはできない。数字は数字、人は人だ。
もう一つは、本人が受け身で直面する処遇で、決める側に向けて書かれる。部署が解散し、責任者がその人をどう扱うか——これがこの経路の典型だ。まず状況を埋める。何が起きたのか、対象の現在の役割と在籍年数、本人は知らされているか、時間的な圧力、そして本人が持っている札——中核業務の知識、重要な顧客との関係、チームへの影響力、法的に保護される点、外部の機会。次に処遇案を二つから四つ、各案六項目で書く。性質(新しい任務、平行異動、降格、合意退職、解雇、ポスト廃止)、収入への影響、肩書きと部下、転居の要否、猶予期間、補償の有無。プログラムはまず対象の基線を計算する。収入がゼロになったとき預金が何か月もつか、何人を巻き込むか——ここから制約の段階が決まる。札が何項目あるかから札の段階が決まる。続いて各案について、新しい月収と月の収支、補償を含む新しい資金の持続期間、衝撃の段階、可逆性の段階を算出する。その上で AI が五節を書く。対象の置かれた状況、案ごとの評価、横断比較、反対意見、決める側への助言。案ごとの評価は各案五行——反応の分布(受け入れ、交渉、抵抗、離脱がそれぞれ高中低のどれか。百分率は出さず、「彼は受け入れるだろう」とは書かない)、発動条件、対象への影響、決める側へのリスク(法務、チーム、知識と関係、実行の四方面)。横断比較は決める側にとっての総合リスク順に並べ、反対意見は一位の案に向けられる。助言の第一項は、本人がまだ知らない場合、どう伝えるか・どの順序で・どの時機かでなければならない。
この経路には二本の線がプロンプトに書き込まれている。一本は立場。決める側に向けて書くが、決める側を取り繕わないし、対象を弁護もしない。対象の損失はそのまま書き、決める側のリスクもそのまま書く。もう一本は禁域。年齢、性別、宗教、外見、婚姻・育児・扶養の状況は、いかなる処遇の選択・順位づけ・除外の理由にもしてはならない。これらは法務リスクの中にのみ、法務に確認すべき保護点として現れうる。法務の欄には確認すべき点を並べるだけで、条文は引かず、合法とも違法とも断定しない。
どうやって実現しているか
この節は原則の話で、コードの話ではない。
計算できることはコードに任せる。月の収支、資金の持続期間、総費用、巻き込まれる人数、尺度の得点、制約、札、衝撃、可逆性——計算できるものはすべて手元のプログラムが確定的に算出し、プロンプトにはこう書いてある。これらの数値と段階はそのまま引用すること、再計算は禁止、段階の変更は禁止。AI が数字を間違えたり段階を動かしたりすることは、ここでは制度として禁じられている。
判定基準は固定する。三つの結論の発動線と条件、尺度の切点、反応分布の導出順序(制約と札が主で、性格は一段階しか動かせない)——いずれも明文の規則だ。AI は実行と説明を担当し、基準の発明は担当しない。
推測を許さない。構造化された項目から性格は導けないのだから、導いてはならない。一件の記録では「高」も「低」も支えられないのだから、「中」までしか出せない。導けないものは根拠なしと書く。「未知、ゼロとして計上」と記された項目を、本文で「なし」と書くことは許さない。推定には番号の引用と反証条件が必須だ。
性格は数字を覆さない。性格と観察記録ができるのは、リスクの注意書きと実行上の助言を増減させることだけで、数字が定めた結論を一段上げたり下げたりはできない。
反対意見を前に出す。どちらの経路にも独立した一節があり、結論と反対の立場に立って最も強い理由を述べる。結論が推奨のときは特に手を抜いてはならない。この工具が占いに最も似ていない部分がここだ。
停止線。決定や状況が医療上の判断、心理的危機、自傷や他害のリスクに関わるとき、どちらの経路も通常の分析を行わない。節の見出しはそのまま出すが、本文には「本項は対象外」とだけ書き、唯一の助言は当事者にまず医師や専門家の助けを得てもらうことだ。
締めくくりはモデルの口から出さない。各レポート末尾の定型文——尺度は未較正、推定は本人未受検、結論は判決ではなく傾向、法務に関する記述は法的助言ではない——はページ側で固定的に付加する。固定すべきものは固定し、確実性を確率に委ねない。
門と鍵。サイト全体にパスワードの門がある。AI の鍵はサーバー側にのみ存在し、ブラウザが手にすることは決してない。分析には思考過程を伴うモードを使う。ファイル、アセスメント、シミュレーションの履歴はあなた自身の端末にのみ保存され、サーバーは何も保持しない。まとめて一つのファイルに書き出すことも、書き戻すこともできる。分析を生成するとき、材料は保護されたゲートウェイを通って送られ、使い終えれば破棄される。
